大切な家族の残された時間について、医師から話があった。その日から、気持ちが追いつかないまま毎日が過ぎていく。そんな方に向けて、この記事を書きました。
私はホスピスで3年間、看護師として働いていました。そこで出会ったご家族の多くが、「自分には何もできない」と感じておられるように見えました。
- 話を聞いてから、気持ちがずっと追いつかない
- 本人のそばにいても、何もしてあげられない気がする
- 医師や看護師におまかせするしかないと思っている
- つらいのは本人なのだから、と自分の気持ちを抑えている

そばにいても、何もしてやれなくて。先生や看護師さんにおまかせするしかないと思っています。

そう感じるのは、それだけ大切に思っておられるからだと思います。病気のことは私たちが引き受けます。その方のことを一番ご存じなのは、ご家族です。
この記事では、余命を告げられた家族の心の動きと、家族がそばにいる意味を、がんの場合を中心にまとめました。気持ちが少しでも軽くなれば嬉しいです。
余命を告げられた家族の心の動き

余命を告げられるまでの道のりは、人によって違います。
長い治療の先でその話を聞く方もいれば、病気が分かってすぐに聞く方もいます。どちらの場合も、気持ちが追いつかないのは自然なことです。
長い治療の先で告げられた家族
ホスピスに来られる方の多くは、できる限りの治療を続けてこられた方でした。
これ以上の治療は体への負担が大きい。本人や医師がそう考えたときに、次の過ごし方を選ぶことになります。ここまで一緒にがんばってきた家族にとって、治療の区切りは、とても重い知らせです。
がん情報サービスにも、がんが進行したり再発したりしたときに、頭が真っ白になって担当医の説明が頭に入らなかったという方はたくさんいる、と書かれています。
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「家族のがんが進行・再発したとき」
突然に告げられた家族
病気が分かったときには、すでに治療が難しかった方もおられました。年齢などの理由から、治療を望まなかった方もいます。
この場合、家族は心の準備をする時間がほとんどないまま、いくつものことを決めなくてはなりません。何が起きているのか分からないまま日が過ぎていく。そう感じるのも無理のないことです。
どの家族にも起こる心の揺れ
告げられた経緯が違っても、心の揺れは多くの家族に起こります。
がん情報サービスは、家族が「受け入れられない」という思いを抱いたり混乱したりするのは、ごく自然なことだとしています。
- 信じられない、認めたくない
- なぜうちの家族が、という怒り
- もっと早く気づいていれば、と自分を責める気持ち
- 眠れない、食べられない、何も手につかない
こうした気持ちは、本人にも家族にも起こります。おかしなことではありません。
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「家族ががんになったときに知っておきたいこと」/国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」
病気によってこの先の道のりがどう違うのかは、こちらの記事でまとめています。

心の動きを表す5つの段階

揺れる気持ちを眺める手がかりとして、「5つの段階」というよく知られた考え方を紹介します。
アメリカの精神科医エリザベス・キューブラー・ロスが、著書『死ぬ瞬間』で紹介したものです。命の限りと向き合う患者さんの話を聞き、その心の動きをまとめた本として知られています。ここでは名前の紹介にとどめます。当てはめるためのものではなく、気持ちを眺めるための地図くらいに受け取ってください。
否認・怒り・取引・抑うつ・受容
5つの段階は、次のように呼ばれています。かっこの中は本の言葉ではなく、私が添えた例です。
- 否認(そんなはずがない、何かの間違いではないか)
- 怒り(なぜ私が、なぜうちの家族が)
- 取引(せめてあの日までは、と願う)
- 抑うつ(何もする気になれない)
- 受容(これからの時間をどう過ごそうかと考え始める)
どの気持ちにも名前がついています。それだけ多くの人が通ってきた気持ちだということです。
出典:エリザベス・キューブラー・ロス著・鈴木晶訳『死ぬ瞬間 死とその過程について』中公文庫
順番どおりに進まない心
私は、この5つを階段のように一段ずつ上がっていくものとは受け取っていません。
昨日は落ち着いていたのに、今日は涙が止まらない。受け入れたつもりでいたのに、また怒りがわいてくる。行ったり来たりするのが、人の心だと思います。
「まだ受け入れられない自分はだめだ」と思う必要はありません。
本人と家族で違うペース
同じ知らせを聞いても、心の動く速さは人それぞれです。
本人は落ち着いているのに、家族のほうが受け止めきれない。きょうだいの中で、自分だけが取り残されている気がする。そんなこともあります。
それぞれのペースでかまいません。同じ気持ちになれなくても、大切に思う気持ちは同じです。
何もできないと感じる家族の思い

ここからは、ホスピスで働いていたころのことを書きます。
病気が進むと、家族が手を出せる場面は少なくなっていくように見えます。痛みを和らげるのも、体を整えるのも、医師や看護師の仕事です。「何もできない」という思いは、そこから生まれてくるのだと思います。
ホスピスで見てきたご家族の姿
ご家族のそばにいると、「自分には何もできない」「おまかせするしかない」と感じておられるように見えることが、何度もありました。
言葉で聞いたわけではありません。そばで見ていて、そう感じたのです。何もできないと思うのは、それだけ大切に思っているからではないでしょうか。
看護師として揺れていた私
私自身も、揺れていました。
できないことが増えていくつらさを患者さんから打ち明けられて、返す言葉が見つからなかったことがあります。自分に何ができるのだろうと、何度も自分に問いかけていました。
答えがすぐに出ないのは、家族も看護師も同じです。
患者さんから受け取ったもの
今回あらためて振り返ってみて、患者さんやご家族から受け取ったものが、たくさんあったと感じています。
つらい状況のなかで懸命に生きておられた姿に、今も敬意を抱いています。
そばにいるうちに、私はこう思うようになりました。
先のことは分からなくても、今日できることをしよう。今日のケアを届けよう、と。
家族はその人の専門家

医療者は、病気の専門家です。そして家族は、その人の専門家だと私は思っています。
何か特別なことをしなくてもかまいません。その人を知っているということ自体が、家族にしかない力です。
一緒に過ごしてきた時間の長さ
家族は、その人と過ごしてきた時間が圧倒的に長い人です。
私たち医療者は、医療については学んでいます。けれど、その人がどんな人で、何を大切にしたいのかを、短い関わりのなかで知るのは難しいこともありました。心を閉ざしてしまう方もおられました。
だからこそ、ご家族からその人のこれまでの歩みを聞かせていただく時間は、とても貴重なものでした。
医療者に伝えてほしいその人らしさ
その人らしさは、遠慮せずに伝えてください。
- どんな仕事をして、どんなふうに暮らしてきたか
- 好きな食べ物や音楽、呼ばれたい名前
- されると嫌がること、大切にしている習慣
- 以前、こんなふうに過ごしたいと話していたこと
こうした話は、その人に合ったケアを考える手がかりになります。思いついたときに、一つずつで十分です。
そばにいることの意味
何を話せばいいのか分からない。そんな日があっても大丈夫です。
がん情報サービスには、家族の関わりについて次のように書かれています。
「一生懸命に相手を理解しようとしたこと」「手探りでも、コミュニケーションを重ねていったこと」は、相手に伝わり、そうしたあなたの存在そのものが、ご本人にとって大きな支えにつながります。
上手な言葉がなくても、そばにいること自体が支えになります。家で過ごすことと施設に頼ることについては、こちらの記事でも書いています。

家族自身の気持ちの置き場所

ここまで本人のことを中心に書いてきましたが、家族自身の気持ちも同じくらい大事です。
がん情報サービスは、家族も大きな負担を抱えることから「第二の患者」といわれることもあると紹介しています。
疲れた・怖い・逃げたいという気持ち
疲れた。怖い。つらい。逃げたい。そう思う日があって当然です。
「本人はもっとつらいのだから」と気持ちを抑えてしまう家族は少なくない、とがん情報サービスにも書かれています。そう思ってしまう自分を、責めなくて大丈夫です。
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「家族ががんになったときに知っておきたいこと」
夜、ひとりになったときに少しだけ力を抜く時間も、持ってみてください。

気持ちを話せる相談先
家族のつらさや困りごとは、医療者に話してかまいません。
- 担当の医師や看護師
- 病院のソーシャルワーカー
- がん相談支援センター(がん診療連携拠点病院にあり、家族も無料で相談できます)
家族が自分のことを相談するのは、わがままではありません。医師が忙しそうで話しにくいときは、看護師に声をかけてください。
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」/国立がん研究センター がん情報サービス「家族のがんが進行・再発したとき」
つらさが長く続くとき
眠れない、食べられない、何も手につかない。そんな状態が長く続くこともあります。
ひどく落ち込んで何も手につかない状態が長引いたり、日々の暮らしに支障が続いたりするときは、早めに医師や看護師に相談してください。
家族自身のかかりつけ医に話すのも一つの方法です。
余命を告げられた家族のよくある質問

ご家族が迷いやすいことを、6つまとめました。
どれも、こうすべきという正解があるものではありません。考えるときの手がかりにしてください。
本人が怒りをぶつけてくるとき
強い言葉を向けられると、家族もつらくなります。がん情報サービスにも、「なぜ自分だけが」と怒りを感じることがあると書かれています。怒りは、病気や状況に向けられた気持ちでもあります。言い返さずに受け止めるのが難しいときは、その場を少し離れてもかまいません。つらさは看護師にも話してください。
本人が話したがらないとき
無理に聞き出さなくて大丈夫です。話したくない日もあります。同じ部屋で静かに過ごすだけでも、一緒にいることは伝わります。本人が話したくなったときに、聞ける人がそばにいることが支えになります。
家族の中で受け止め方が違うとき
家族の間で考えが合わないこともあります。がん情報サービスは、意見が違っても、本人を大切に思う気持ちは同じだということを確かめ合うようすすめています。家族だけで話がまとまらないときは、医療者や相談員に間に入ってもらう方法もあります。
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「家族ががんになったときに知っておきたいこと」
本人の前で泣いてしまうとき
泣いてはいけない、と思わなくて大丈夫です。涙は、大切に思っている気持ちの表れです。泣いてしまったあとに「ごめんね、大事だから」と一言添えられたら、それで十分だと私は思います。
仕事や用事でそばにいられないとき
ずっとそばにいられないことを、申し訳なく思う方は多くおられます。けれど、家族にも暮らしがあります。そばにいる時間の長さだけが、思いの深さではありません。来られない日のことは、看護師に遠慮なく伝えてください。
子どもにどう伝えるか迷うとき
子どもへの伝え方は、とくに迷うところです。がん情報サービスは、伝え方にこうでなくてはいけないという正解はないとしたうえで、子どもの発達に合わせて伝えることをすすめています。
ホスピスでも、お子さんの年齢や理解に合わせて、どう伝えるかをご家族と一緒に相談することがありました。伝えたあとの見守りのために、学校の先生に状況を知っておいてもらうこともありました。ひとりで決めずに、医師や看護師に相談してください。
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「病気について子どもに伝える」/国立がん研究センター がん情報サービス「未成年の子どもがいるがんと診断された方へ」
余命を告げられた家族の心のまとめ

余命を告げられたあと、気持ちが追いつかないのは自然なことです。
- 告げられた経緯が違っても、心の揺れは多くの家族に起こる
- 「5つの段階」は、気持ちを眺めるための地図。順番どおりでなくていい
- 本人と家族、家族どうしでも、ペースは違っていい
- 医療者は病気の専門家、家族はその人の専門家
- 上手な言葉がなくても、そばにいること自体が支えになる
- 家族自身のつらさも、医療者に話してかまわない
「何もできない」と感じたら、思い出してください。あなたは、その人のことを一番よく知っている人です。
まずは一つだけ、その人らしさを看護師に話してみてください。好きな食べ物でも、昔の仕事の話でもかまいません。
「何かしてあげたい」と思ったときに、家族の手でできるケアの一つを、こちらの記事で紹介しています。

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