お風呂に入れない日が続くと、「何かしてあげたい」と思うことがあります。
そんなときにおすすめしたいのが、手だけをお湯で温める「手浴(しゅよく)」です。洗面器とお湯とタオルがあれば、ベッドの上でもできます。
- お風呂に入れない日にも、さっぱりしてもらいたい
- 何かしてあげたいけれど、何をすればいいか分からない
- 体を動かすのは、本人も自分も大変
- 特別な道具は、家にない

お風呂のない日にも、家でしてあげられることはありますか。

手浴がおすすめです。手をお湯につけるだけなので、ベッドに横になったままでもできますよ。
前回は、余命を告げられたご家族の気持ちについて書きました。読むのに力のいる内容だったかもしれません。

今回は、少し肩の力を抜いて。「何かしてあげたい」と思ったときに、家にあるものでできるケアを紹介します。
お風呂に入れない日の手浴という選択

手浴は、手のひらから手首までをお湯につけて温めるケアです。
お風呂のように体全体を動かす必要がありません。してもらう人にも、する人にも、負担が少ないのがいちばんの良さです。
ベッドの上でできる手軽なケア
必要なのは、洗面器とお湯とタオルです。
ベッドに横になったままでも、体を起こした姿勢でもできます。思い立ったときに、家にあるもので始められます。
本人の負担の少なさ
お風呂は気持ちのいいものですが、体力を使います。
服を脱いで、移動して、湯につかって、また着る。体調がすぐれない日には、それだけで疲れてしまうこともあります。手浴なら、横になったまま、手だけを出せばいいのです。
ホスピスで見てきた手浴の時間
私がホスピスで働いていたころ、ベッドの上で過ごす時間の長い方のお風呂を、お手伝いしていました。
湯につかると、みなさん「極楽や〜」と言って喜んでくださいました。ただ、お風呂は大がかりで、何人ものスタッフが必要です。毎日というわけにはいきませんでした。
ベッドの上での手浴なら、看護師ひとりでもできます。ご家族にもできます。
それでも、ほっと一息ついてもらえる時間になりました。先日、温泉で手を湯にひたしたときに、そのことをふと思い出しました。
手浴の前にそろえるもの

手浴のために、新しく買うものはありません。
まずは家にあるものをそろえます。準備がかんたんなことも、続けやすさにつながります。
洗面器とお湯とタオル
そろえるものは、次のとおりです。
- 洗面器(手首までつかる深さのもの)
- お湯(洗面器に入れる分と、足し湯やすすぎ用にもう少し)
- タオル2〜3枚(下に敷く用と、ふく用)
- ビニールのシートか、大きめのごみ袋(ベッドをぬらさないため)
- 保湿用のクリーム(ふだん使っているもの)
石けんは、使わなくてもかまいません。温めるだけでも十分です。
お湯の温度の目安
お湯の温度について、足利市の資料では、ぬるめからやや熱く感じる38〜43℃ぐらいとされています。
お湯は、かならず自分の手を入れて確かめてから使ってください。
はじめは、ぬるめから。本人に「熱くない?」と聞きながら、足し湯で調整します。熱さを感じにくい方の場合は、とくにぬるめにして、先に訪問看護師や主治医に相談しておくと安心です。
ベッドをぬらさない工夫
ベッドの上でするときは、ぬれても大丈夫なようにしておきます。
ビニールのシートを敷き、その上にタオルを重ねます。洗面器は、お湯を入れすぎないのがこつです。半分くらいにしておくと、手を入れてもこぼれにくくなります。
ベッドの上での手浴の手順

手順はかんたんです。姿勢を整えて、手をひたして、ふく。それだけです。
片手ずつでも、両手いっしょでもかまいません。本人が楽にしていられることを、いちばんに考えてください。
楽な姿勢づくり
まず、本人が楽な姿勢になれるようにします。
体を起こせるときは、背もたれを上げます。横になったままのときは、手を出しやすい側に洗面器を置きます。腕の下にタオルやクッションを入れて支えると、腕が疲れにくくなります。
手をひたして温める時間
手のひら、指、手首までを、ゆっくりお湯につけます。
しばらくは、何もせず、ただ温めるだけで大丈夫です。お湯がぬるくなってきたら、熱すぎないことを確かめながら足し湯をします。
指のあいだまでのやさしい洗い方
手が温まってきたら、お湯の中でやさしくなでるように洗います。
指のあいだや手のひらのしわは、汚れがたまりやすい所です。こすらず、なでるくらいの力で十分です。石けんを使ったときは、お湯を取りかえてすすぎます。
水気のふき取りと保湿
終わったら、タオルで水気をしっかりふき取ります。
指のあいだも忘れずに。ぬれたままだと、手が冷えてしまいます。そのあと、ふだん使っているクリームで保湿します。
時間の目安について、足利市の資料には次のように書かれています。
長時間になるとかえって疲れてしまうので10~20分で終わるようにしましょう。
手浴のあとのハンドマッサージ

クリームをぬるときに、そのまま手をやさしくなでてみてください。
むずかしい技術はいりません。手を包んで、ゆっくりなでるだけでいいのです。
力を入れないなで方
クリームを自分の手のひらで温めてから、本人の手にのばします。
手の甲から手首に向かって、ゆっくりなでます。強くもんだり、押したりはしません。本人の表情を見ながら、心地よさそうな強さを探してください。
手のひらと指のほぐし方
手のひらは、両手で包むようにして、親指でゆっくり円をえがきます。
指は、一本ずつ、付け根から指先へなでます。曲がったままの指を、無理に伸ばすことはしません。痛がるときや、むくみが気になるときは、そこでやめて、訪問看護師に相談してください。
触れることで生まれる会話
手に触れている時間は、不思議と言葉が出てきます。
ホスピスでも、手浴をしているうちに、緊張がほぐれて、ぽつりぽつりと会話が生まれることがありました。体に直接触れる時間は、つながりを感じられる時間でもあります。何も話さなくても、かまいません。
手浴をひかえたいとき

手浴は負担の少ないケアですが、先に確かめておきたい場面もあります。
むずかしく考えなくて大丈夫です。迷ったら、聞いてからにする。それだけ覚えておいてください。
手や腕に傷や点滴があるとき
手や腕に傷があるとき、点滴の針が入っているときは、ぬらしてよいかを先に確かめます。
その手はお休みにして、反対の手だけにする方法もあります。
熱があるときや体調がすぐれないとき
熱があるとき、ぐったりしているときは、無理にしなくてかまいません。
本人が「今日はいい」と言う日は、お休みにしましょう。してあげたい気持ちは、また次の機会に取っておけます。
迷ったときの相談先
「この手は、ぬらしていいのかな」と迷ったら、訪問看護師や主治医に聞いてください。
訪問看護を利用しているなら、訪問のときに「手浴をしてみたいのですが、気をつけることはありますか」とひとこと聞いておくと安心です。訪問の時間は決まっているので、その場で一緒にできるとは限りません。聞くだけなら、短い時間ですみます。

手浴のよくある質問

手浴について、聞かれることの多いことをまとめました。
どれも、こうしなければいけない、という決まりではありません。目安として読んでください。
毎日してもよいか
回数に決まりはありません。本人が心地よさそうなら、続けてかまいません。手が乾燥しやすくなるので、終わったあとの保湿は忘れずに。肌が赤くなったり、荒れたりしたときは、お休みして看護師に相談してください。
石けんを使うか
使わなくても大丈夫です。温めるだけでも、さっぱりします。汚れが気になるときに使う場合は、洗ったあとにお湯を取りかえて、よくすすぎます。
本人が気乗りしないとき
無理にすすめなくてかまいません。温かいタオルで、手を包むだけでも気持ちのいいものです。お湯を用意しなくても、電子レンジで作れます。
- タオルを水でぬらして、軽くしぼる
- くるくる巻いて、ラップで包むか、耐熱の袋に入れる
- 電子レンジで温める。短い時間から、様子を見ながら少しずつ
- 取り出したら広げて、少しさます
温めたてのタオルは、中のほうがとても熱くなっています。かならず広げて、自分の腕の内側に当てて確かめてから、手を包んでください。
香りを楽しみたいとき
香りを使うなら、まずは部屋にほのかに香らせるくらいから始めるのがおすすめです。日本アロマ環境協会は、精油(アロマオイル)の原液を肌につけないこと、治療を受けている場合は医療機関に相談することを呼びかけています。
体調によっては、香りがつらく感じられることもあります。本人の好みを聞いてからにしましょう。
足にもできるか
できます。足をお湯につけて温める「足浴(そくよく)」というケアです。足利市の資料でも、手浴と並べて紹介されています。やり方は手浴とほとんど同じです。足に傷やむくみがあるときは、始める前に訪問看護師や主治医に聞いてみてください。
時間がとれないとき
片手だけでも、5分だけでも大丈夫です。短い時間でも、手が温まるとほっとします。介護する人自身が疲れている日は、お休みしてください。
手浴のまとめ

手浴は、家にあるものでできる、小さなケアです。
- 洗面器とお湯とタオルがあれば、ベッドの上でもできる
- お湯は、自分の手で確かめてから。はじめはぬるめに
- ひたして温めて、やさしくなでて、しっかりふく
- 長くなりすぎないように。短い時間でも十分
- 迷ったときは、訪問看護師や主治医に聞いてから
- 触れる時間は、つながりを感じられる時間
上手にできなくても大丈夫です。手を温めてもらった、という時間そのものが、きっと届きます。
まずは、洗面器にお湯をはって、片手だけ試してみてください。そして終わったら、あなた自身の手も、温めてあげてくださいね。

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