この介護は、いつまで続くのだろう。先が見えないなかで、そう感じたことがある方は少なくないと思います。
先が見えないのは、介護に決まった期限がないからです。ただ、この先の道のりには、病気ごとにおおよその形があります。それを知っておくと、今のうちにできることが見えてきます。
- この先どうなるのか分からない不安
- 入退院が増えてきたことへの戸惑い
- 何を準備しておけばいいのか分からない
- 本人と先のことを話せていない

この介護は、いつまで続くんでしょうか。

病気によって、この先の道のりの形は違います。一緒に見ていきましょう。
この記事では、病気ごとに違うこの先の道のりと、入退院が増えてくる時期のこと、そして介護する人が今からできる備えをまとめました。道のりの形を知ると、今のうちにしておきたいことが見えてきます。
先の見通しを知る意味

先の見えない介護は、心にも体にも重くのしかかります。
けれど、先の見通しを少しでも知っておくと、今どこにいて、この先に何を備えればいいのかを考えやすくなります。まずは、なぜ先が見えないと感じるのかから整理します。
先が見えないと感じる理由
介護には、あらかじめ決まった期限がありません。
昨日と同じような毎日が続くかと思えば、急に体調が変わることもあります。予定を立てにくく、先のことを考える余裕もなくなりがちです。
できていたことができなくなる本人のつらさ
介護の大変さは、介護する人だけのものではありません。
それまで当たり前にできていたことが、少しずつできなくなっていく。その変化にいちばん戸惑い、つらさを感じているのは、本人かもしれません。
子育ては、できなかったことが少しずつできるようになっていく時間です。介護はその反対で、できていたことが少しずつできなくなっていきます。
その変化を誰よりも感じているのは、本人です。私自身、この視点を持っていたからこそ、看護の仕事を続けてこられたと思っています。
見通しがあると考えやすくなること
この先の道のりを知ることは、不安をあおるためではありません。
日本内科学会雑誌では、医療者が病気ごとの特徴をふまえて「今後の経過を患者・家族と共有し」、治療やケアにあたることが大切だと述べられています。見通しを知っておくと、本人の気持ちを聞いておく時期や、準備を始める時期を考えやすくなります。
一人ひとり経過は違う
これから紹介するのは、あくまで病気ごとの典型的な形です。
経過には疾患別に大きな違いがあり、かつ終末期の軌道に関係する因子は複雑で、共通性は少ない
私も訪問看護で、難病や認知症、心臓や呼吸器の病気、脳梗塞の後遺症とともに暮らす方に関わってきました。ご本人やご家族のこの先については、必ず主治医に確認してください。
病気で違うこの先の道のり

病気によって体の機能がどう変わっていくかの形は、「病の軌跡」と呼ばれています。
日本内科学会雑誌では、研究者のLynnらによる分類として、人生の最終段階の機能の変化を突然死、がん、臓器不全、フレイル(認知症など)の4つに分けて紹介しています。ここでは、身近な病気に置きかえて見ていきます。

がんの場合
がんは、比較的長く、それまでの生活を続けられることが多い病気です。
人生の最終段階は月単位であることが多く,治療の経過中も従来の日常生活を送ることができるが,最後の数カ月で急激に機能が低下することが多い.
変化が急にやってくることがあるため、体調が落ち着いているうちに、本人の希望を聞いておくことが大切になります。
心臓や呼吸器の病気の場合
心不全や、COPDなどの呼吸器の病気は「臓器不全」に分けられます。
このカテゴリーでは,慢性心不全をはじめとした,代償不能の肝硬変,COPD等が例として挙げられる.人生の最終段階は年単位であることが多く,寛解と増悪を繰り返し徐々に機能が低下し,死亡直前は急激に機能が低下することが多い.
悪くなっては持ち直すことを繰り返すため、入退院が増えてくるのがこの形の特徴です。次の章で詳しく見ていきます。
認知症や老衰の場合
認知症や老衰は「フレイル」に分けられ、長い時間をかけてゆっくり変化していきます。
代表的な疾患として「認知症」が挙げられる.人生の最終段階はさらに長い経過になり,数年単位から10年を超えることもあり,いつが人生の最終段階かを見極めることが難しい.
変化がゆるやかなぶん、介護の期間が長くなりやすい形です。介護する人が長く続けられる体制を早めに整えておくことが支えになります。
難病の場合
難病は、病気の種類によって経過が大きく違うため、決まった形で示すことはできません。
埼玉県のページでは、難病法で定める難病を、次のすべてにあてはまる病気と説明しています。
- 発病の機構が明らかでない
- 治療方法が確立していない
- 希少な疾病である
- 当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの
出典:埼玉県「難病とは」
私はこれまで、ALSやパーキンソン病、筋ジストロフィーなどの難病とともに暮らす方に関わってきました。
治療方法が確立していないという事実への落胆は、とても大きいと思います。そのなかでも、療養生活が続くなかでできること、できたことに目を向けられると、少しでも心の荷が下りるのではないかと感じています。
そして、相談できる場所や頼れる人の存在は、本人にとっても家族にとっても、とても大きな支えになります。
事故などで突然のとき
事故や、心臓や脳の急な病気では、前触れなく状態が変わることがあります。
心血管疾患や脳血管障害,事故や災害による死が例として挙げられる.このような場合,人生の最終段階は時間単位から数日単位の経過となることが多く,救急集中治療が同時期に集中して行われる.
備える時間がないからこそ、元気なうちに、大切にしたいことを話しておくことに意味があります。
入退院が増えてくる時期

心臓や呼吸器の病気などでは、入院と退院を繰り返すようになることがあります。
入院が続くと、介護する人は落ち着かない日々が続きます。この時期の特徴を知っておくと、慌てずに備えられます。
悪くなっては持ち直す繰り返し
臓器不全の形では、状態が悪くなって入院し、治療で持ち直して退院する、ということを繰り返しながら、少しずつ機能が下がっていきます。
国立長寿医療研究センターの資料でも、この形は次のように説明されています。
呼吸器疾患や心疾患などの臓器不全モデルで、このモデルでは急性増悪と改善を繰り返しながら、徐々に悪化する軌道をたどり、最期の時は比較的突然に訪れることが多い。
入退院が増えるのは病気の経過のひとつ
入退院が増えてくると、この先どうなるのかと不安になるものです。
けれど、悪くなっては持ち直すことを繰り返すのは、こうした病気がたどる経過のひとつでもあります。今どの時期にいるのかを主治医に確認しておくと、次に何を備えればいいかが見えてきます。
退院のたびに見直したいこと
退院は、暮らし方を見直すよい機会でもあります。
- ケアマネジャーと介護サービスの内容を見直す
- 家の中の動線や必要な道具を整える
- 介護する人の負担が増えすぎていないか確かめる
- 急なときの連絡先や相談先を確認する
入院のたびに慌てないよう、入院の準備についてはこちらの記事にまとめています。

介護する人が今からできる備え

この先の道のりを知ったうえで、今からできることがあります。
どれも、本人の思いを大切にしながら、介護する人が一人で抱え込まないための備えです。できるところから始めてみてください。
主治医にこの先の見通しを聞く
まず、主治医に「この先、どのような経過が考えられるか」を聞いてみてください。
聞きにくいと感じるかもしれません。けれど、見通しを共有しておくことは、本人に合った治療やケアを考えるうえで大切にされていることです。聞きたいことを事前にメモしておくと、落ち着いて話せます。
この先の話を聞いて、気持ちが追いつかないと感じたときは、こちらの記事も読んでみてください。

人生会議で気持ちを話し合う
もしものときにどうしたいかを、前もって話し合っておく取り組みを「人生会議」といいます。
あなたが大切にしたいこと、望んでいる生き方、そして「もしものとき」にどのような医療やケアを望むかについて、前もって考え、話し合っておくことです。
ご家族や大切な人たち、そして医療・ケアチームと話し合っておくことは、ご自身の思いや選択が尊重され、本人が希望する医療・ケアの実施につながります。
話し合いのなかで、本人から「家族に迷惑をかけたくない」という言葉が出ることがあります。
厚生労働省の調査では、医療や介護を受けたい場所に病院や介護施設を選んだ人に、自宅を選ばなかった理由を尋ねています。
自宅以外で医療・ケアを受けることを選択した理由について、「介護してくれる家族等に負担がかかるから」との回答が最も多かった。
家で過ごしたい気持ちがあっても、家族への遠慮から、その希望を口にしない方もいるということです。「迷惑をかけたくない」という言葉が出たら、その奥にある本当の気持ちにも、そっと耳を傾けてみてください。
病気が進むと、本人が自分の気持ちを伝えられなくなることがあります。そのとき、医療やケアの方針を考えるうえで頼りになるのが、家族が知っている本人の思いです。
家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
反対に、何も話し合わないままだと、家族が迷いながら決めることになります。
もしも、医療やケアの希望について意思表示をすることがないまま、あなたに万が一のことが起こったら、家族や周りの人が、あなたの代わりに難しい選択や判断を迫られるかもしれません。
本人の希望がはっきりしていて、家族もそれを理解している。このことは、本人に代わって家族が決めなければならない場面で、とても大きな力になります。
「本人ならこう望むはず」と思えることは、代わりに決める家族の心の負担を軽くすることにもつながります。
エンディングノートに思いを書き残す
話し合ったことを、形に残しておく方法もあります。そのひとつがエンディングノートです。
エンディングノートとは、自分自身に何かあったときに備えて、ご家族が様々な判断や手続を進める際に必要な情報を残すためのノートです。
口で伝えただけでは、あとから思い出せなかったり、家族の間で受け止め方が違ったりすることがあります。書き残しておくと、家族みんなで同じ思いを確かめられます。
市区町村によっては、独自のノートを配っているところもあります。たとえば甲賀市では、地域包括支援センターなどで「ライフノート」を渡しています(甲賀市「ライフノート(エンディングノート)」)。お住まいの市区町村の窓口に問い合わせてみてください。
書いたノートは、どこにしまってあるかを家族に伝えておくことも忘れないようにしましょう。
相談できる人と場所を決めておく
介護を一人で抱え込まないために、相談先を先に決めておきましょう。
- 主治医
- 訪問看護師
- ケアマネジャー
- 地域包括支援センター
- 難病の方は難病相談支援センター
難病相談支援センターの一覧は、難病情報センター「難病相談支援センター一覧」で確認できます。
それぞれの職種が何をしてくれる人なのかは、こちらの記事でまとめています。

急なときの連絡先をまとめる
急に具合が悪くなったとき、慌てていると連絡先を探すだけで時間がかかります。
主治医や訪問看護、ケアマネジャー、家族の連絡先を一か所にまとめ、誰が見ても分かる場所に置いておくと安心です。飲んでいる薬が分かるものも、あわせてそばに置いておきましょう。
介護する人自身が休む時間も、備えのひとつです。短い時間でできる息抜きについては、こちらの記事でまとめています。

この先の道のりのよくある質問

最後に、この先のことを考えるときによくある疑問をまとめました。
病気の経過は一人ひとり違います。ご本人の見通しは、必ず主治医に確認してください。
これからの経過は誰に聞けばいいか
まずは主治医に聞いてみてください。訪問看護を利用している場合は、訪問看護師にも相談できます。
一度に全部を聞こうとしなくて大丈夫です。気になったときに、少しずつ確認していきましょう。
人生会議はいつ始めればいいか
横浜市のページでは、人生会議を次のように説明しています。
もしものときに、どのような医療やケアを望むのか、前もって考え、家族や信頼する人、医療・介護従事者たちと繰り返し話し合い、共有することを「人生会議」(アドバンス・ケア・プランニング:略称ACP)といいます。
「繰り返し」とあるように、一度で決めなくていいものです。
病気が進んだり、暮らしが変わったりすると、考えも変わっていきます。気持ちは変わるものなので、そのたびに話し直して大丈夫です。厚生労働省のリーフレットにも、次のように書かれています。
心身の状態に応じて意思は変化することがあるため何度でも繰り返し考え話し合いましょう
元気なうちから、少しずつ話しておくと安心です。厚生労働省は11月30日を「人生会議の日」としています。
本人に話を切り出しにくいとき
いきなり「もしものとき」の話をするのは、難しいものです。
そんなときは、身近なきっかけを使ってみてください。たとえば、ドキュメンタリーやドラマで病気や介護の場面が出てきたときです。
「どうしたい?」といきなり聞くより、まず自分の考えを伝えてから、相手の考えを聞くと、話しやすくなります。

私だったら、できるだけ家で過ごしたいなと思うけど、あなたはどう思う?
自分の考えを先に話すと、相手も「自分はこうかな」と答えやすくなります。知り合いの入院や、親戚の集まりで昔の話になったときも、よいきっかけになります。
ただ、この話をしたくないと感じる方もいます。厚生労働省のリーフレットでも、次のように書かれています。
知りたくない、考えたくない方への十分な配慮が必要です。
無理に聞き出そうとせず、話せそうなときを待つことも大切です。主治医や訪問看護師に、話し合いの場に加わってもらうのもひとつの方法です。
入退院が続くと家で看るのは難しいか
国立長寿医療研究センターの資料では、臓器不全の形について次のように説明されています。
ケアが長期間に及ぶこと、終末期と急性増悪の区別が困難であることがあり、これが在宅での看取りを困難にする。
家で看るか、病院や施設に看てもらうかは、病気の状態や家族の状況によって変わります。どちらを選んでも、決して悪いことではありません。家で過ごす意味と、病院や施設に頼る選択については、こちらの記事でまとめています。

難病の相談窓口はどこか
難病の方やご家族は、難病相談支援センターに相談できます。
一覧は難病情報センター「難病相談支援センター一覧」で確認できます。主治医や訪問看護師、ケアマネジャーにも、あわせて相談してみてください。
介護の道のりのまとめ

介護には、決まった期限がありません。けれど、この先の道のりのおおよその形を知っておくことはできます。
- できていたことができなくなる本人のつらさ
- 病気によって違うこの先の道のり
- 経過は一人ひとり違い、見通しは主治医に確認
- 入退院の繰り返しは病気の経過のひとつ
- 人生会議で本人の思いを話し合い、家族も知っておく
- エンディングノートに書き残し、置き場所を伝える
- 相談先と急なときの連絡先を決めておく
道のりの形を知っておくことは、残された時間を本人らしく過ごすための準備です。できるところから、少しずつ始めてみてください。
家で過ごすか、病院や施設に頼るかを迷ったときは、こちらの記事も読んでみてください。

この道のりを歩む本人と、そばで支えるご家族の毎日が、少しでも穏やかでありますように。
読んでの感想や、「こんなことも書いてほしいな」と思うことがあれば、気軽に教えてください。ひとことだけでも、とてもうれしいです。お名前は書かなくて大丈夫です。


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