何度呼んでも気づいてもらえない。話しかけても聞き返されてばかりで、つい声が大きくなってしまう。耳が遠くなった家族との会話で、そんなすれ違いに悩んでいる方は少なくありません。
聞こえにくさは、家族の伝え方を少し変えるだけで楽になる部分があります。そのうえで、補聴器を考えるなら、まず耳鼻咽喉科での相談から始めてほしいと思っています。
- 呼んでも気づいてもらえない
- 聞き返しが増えて会話が減った
- 伝わらないことでお互いに疲れる
- 補聴器をどこで相談すればいいか分からない

何度呼んでも気づいてもらえなくて、つい大きな声になってしまいます。

伝え方の工夫と、相談できる場所を一緒に確認していきましょう。
この記事では、家でできる会話の工夫と、補聴器について相談できる耳鼻咽喉科の探し方、補聴器に慣れるまでの心構えをまとめました。聞こえの改善には、一緒に伴走してくれる専門職がいます。
聞こえにくさで起きるすれ違い

聞こえにくさによって困るのは、聞こえない本人だけではありません。
伝えたいことが届かない家族も、同じように疲れていきます。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、難聴によって「家族や友人とのコミュニケーションがうまくいかなくなる」ことを挙げています。まずは、よくある場面を整理します。
呼んでも気づかない場面
離れた部屋や背中側から呼びかけても、気づいてもらえないことがあります。
何度も呼ぶうちに声が大きくなり、呼ばれた側には怒っているように聞こえてしまうこともあります。伝えたい気持ちが強いほど、すれ違いが大きくなるのが難しいところです。
聞き返しが増えて会話が減る
聞き返すことが続くと、聞く側は気が引けてしまいます。
分からないまま返事をしてしまったり、話しかけられることそのものを避けるようになったりすると、少しずつ会話が減っていきます。
伝わらないことへのお互いの疲れ
伝える側は何度も言い直し、聞く側は聞き取ろうと集中し続けます。
どちらかが悪いわけではありません。聞こえにくさが原因のすれ違いは、工夫と相談で減らせる部分があると知っておくだけでも、気持ちは少し楽になります。
補聴器は耳鼻咽喉科での相談から

聞こえにくさが気になったら、補聴器を買う前に、まず耳鼻咽喉科で相談してください。
この記事でいちばん伝えたいのが、この章です。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、補聴器で聞こえを補うことの大切さを次のように伝えています。
加齢性難聴などは現在は治療は困難ですが、補聴器で聞こえを補うことで、認知症予防、生活の質を改善させることができます。
大切なのは、できるだけ早期から補聴器などを使って、「聞こえ」を改善し、ことばを聞き分ける能力を最大限に発揮することなのです。
「そのうち」ではなく、気になった今のうちに、耳鼻咽喉科で相談してみてください。
家族の判断だけで決めない理由
補聴器が必要かどうかは、見た目や普段の様子だけでは分かりません。学会は、次のように伝えています。
自分自身や家族の判断で補聴器が必要か、効果があるかを正しく決めることはできません。
同じページでは、聴力障害と補聴器の両方を熟知した補聴器相談医の診察を受けることがすすめられています。
補聴器相談医がいる耳鼻咽喉科を選ぶ
補聴器相談医は、補聴器について相談できるよう、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が認定している耳鼻咽喉科の医師です。
補聴器は、つけて終わりではありません。学会も「補聴器を上手く利用する生活は信頼できる専門医との二人三脚で行うことが大切です」と伝えています。聞こえの改善に長く伴走してくれる医師を選ぶことが、続けるための支えになります。
言語聴覚士がいると心強い
言語聴覚士は、聞こえやことばの専門職です。
医療機関によっては、補聴器の調整や聞こえの練習に言語聴覚士が関わっています。学会のページでも、補聴器を合わせるうえで言語聴覚士や補聴器技能者の技術が必要だと説明されています。医師と言語聴覚士がそろっている医療機関なら、慣れるまでの時期も相談しやすくなります。
ネットでの探し方
補聴器相談医や言語聴覚士がいる医療機関は、次のページから探せます。
- 補聴器診療が可能な補聴器相談医リスト(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)で、お住まいの都道府県を選ぶ
- 補聴器相談医名簿(同学会)で、都道府県ごとの名簿を見る
- 病院・施設検索(日本言語聴覚士協会)で、都道府県と対象領域「聴覚障害」を選ぶ
一覧に見つからないときは、近くの耳鼻咽喉科に電話で「補聴器の相談ができるか」を確認するか、地域包括支援センターに相談してみてください。
補聴器に慣れるまでの心構え

補聴器を使い始めてから、途中でやめてしまう方は少なくありません。
その理由の一つは、つければすぐ聞こえるものだと思っていたという思い込みです。慣れるまでに時間がかかると先に知っておくことが、続けるための大きな支えになります。
眼鏡のようにすぐ聞こえるわけではない
眼鏡は、かけた瞬間から見え方が変わります。補聴器は、そうはいきません。
学会は、補聴器の役割を次のように説明しています。
補聴器の役割は、入ってきた音を増幅させて、聞き取りに必要な音の刺激を脳に送ることです。
音を届けたあと、それを聞き取るのは脳の役割です。だからこそ、慣れるための時間が必要になります。
最初はうるさく感じる理由
使い始めは、音が大きすぎる、うるさいと感じることがあります。
音の刺激の少ない世界で過ごしていた「難聴の脳」にとって、日常生活の音のレベルでさえ、非常にうるさく不快な音と感じてしまいます。
うるさく感じるのは、補聴器が合っていないからとは限りません。聞こえにくい状態が続いていた脳が、音に慣れていく途中だと知っておくと、あわてずに済みます。
毎日つけて少しずつ慣らす
学会は、長い時間をかけて段階的に音量を上げていくこと、朝起きてから寝るまで毎日しっかりつけることを大切にしています。
最初の1−2週間は不快感を強く感じるかもしれませんが、続けていくうちに脳が補聴器の音にも慣れていき、次第に「難聴の脳」から「聞こえる脳」に変わっていきます。
つらい時期があると先に分かっていれば、途中でやめずに相談しながら続けられます。
家族の励ましが続ける力になる
慣れるまでの時期は、本人だけでがんばるものではありません。
補聴器に慣れるまでのトレーニングの間は特に、家族の理解や協力も欠かせません。
補聴器は、眼鏡のようにつければすぐ良くなるものではなく、慣れるまでの時間が必要なリハビリのようなものだと考えています。その心構えを本人と家族が最初から持っていると、慣れるまでのつらい時期にやめてしまわずに済みます。
続けた先にあるのは、聞こえにくさによる会話のすれ違いが減り、人との交流に前向きになれる毎日です。そこに向かって一緒に伴走してくれる専門職を、ぜひ見つけてください。
伝わりやすい話し方の工夫

補聴器の相談とあわせて、家族の話し方を少し変えるだけでも、伝わり方は変わります。
私が聞こえにくい方に声をかけるときに意識していたことを紹介します。どれも今日からすぐに試せるものばかりです。
- 視界に入る場所から声をかける
- 低めの声で話す
- 少し大きめの声で話す
- ゆっくり話す
視界に入る場所から声をかける
背中側や離れた場所からではなく、相手の目に入る位置まで近づいてから声をかけます。
気づいてもらってから話し始めると、最初の言葉を聞き逃されにくくなります。声より先に、姿で気づいてもらうのがコツです。
低めの声でゆっくり話す
早口になると、聞き取ってもらう前に話が先へ進んでしまいます。
少し低めの声で、ひと言ずつ区切るようにゆっくり話すことを意識していました。急いで伝えたいときほど、あえてゆっくり話すほうが結果的に早く伝わります。
少し大きめの声ではっきり伝える
声は少し大きめにします。ただし、怒鳴るような大声とは違います。
大きすぎる声は、怒っているように受け取られることがあります。大きめの声で、はっきり、ゆっくりを組み合わせるのがおすすめです。
筆談で確実に伝える工夫

話し方を工夫しても伝わりにくいときは、書いて伝える方法があります。
伝えたい内容を確実に相手に届けたいとき、私は筆談にすることが多くありました。聞き違えると困る内容ほど、文字にする価値があります。
大事な内容は文字で伝える
予定や約束、薬のことなど、聞き違えると困る内容は文字にして伝えます。
書いたものを見てもらいながら話せば、声だけで伝えるより行き違いが減ります。身近な道具で始められます。
- メモ帳とペン
- ホワイトボード
- 書いて消せる電子メモパッド
緊急時の言葉はボードにまとめておく
急に体調が変わったときは、落ち着いて言葉をやり取りするのが難しくなります。
そんなときに備えて、とっさに伝えたい言葉を、あらかじめ筆談ボードに書いておくと安心です。指をさすだけで伝えられるので、声を出したり聞き取ったりする負担がありません。
- 痛い
- 息苦しい
- 気持ちが悪い
- トイレ
- 助けて
痛いところを指させるよう、体のどこかを示す欄をつけておくのもひとつの方法です。すぐ手に取れる場所に置いておきましょう。
書いたものが手元に残る安心
筆談の良さは、伝えた内容があとから見返せることです。
「さっき何と言っていたかな」と思ったときに、書いたものが残っていれば確かめられます。聞き返す気まずさも減ります。
文字盤は話すことが難しい方に
文字盤は、五十音やよく使う言葉を並べた板を指さして伝える道具です。
私が文字盤を使うことが多かったのは、話すことが難しい方とのやり取りでした。聞こえにくい方に確実に伝えたいときは、筆談のほうが向いていると感じています。
介護する人の耳が遠いとき

耳が遠いのは、介護を受ける人だけとは限りません。
高齢の夫婦で介護をしている家庭などでは、介護する人自身の聞こえが気になっていることも少なくありません。そんなときに役立つ工夫を紹介します。
声で呼ばれても気づきにくい
介護を受ける人が声で呼んでも、介護する人が気づけないことがあります。
別の部屋にいるときや、家事をしている最中は、なおさら気づきにくくなります。声以外の方法で知らせる仕組みがあると安心です。
鈴やブザーで合図を決める
病院のナースコールの代わりに、鈴やブザーを使う方法があります。
手の届く場所に置いておき、「鳴らしたら来てほしい」という合図を決めておきます。介護する人の耳が遠いときに、特に役立つ工夫です。
スマホのバイブで知らせる
音に気づきにくい場合は、スマホの振動で知らせる方法もあります。
介護する人がスマホを身につけておけば、音が聞こえにくい場所にいても、振動で呼ばれたことに気づけます。
光で知らせる工夫
音ではなく、光で知らせる工夫をしている方もいました。
玄関のチャイムと連動して、パトカーのように回転するランプが光るようにしていた方です。音が届かなくても、光なら目で気づけるという発想は、家の中のさまざまな場面に応用できます。
介護する人自身の体と気持ちを守ることも大切です。短い時間でできる息抜きについては、こちらの記事でまとめています。

聞こえにくさのよくある質問

最後に、補聴器や相談先についてよくある疑問をまとめました。
医療に関わる内容は、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のページの内容をもとにしています。詳しくは出典のページもご覧ください。
集音器と補聴器の違い
集音器は医療機器ではなく、補聴器とは別のものです。
補聴器が必要かどうかは、学会も「自分自身や家族の判断で補聴器が必要か、効果があるかを正しく決めることはできません」と伝えています。まずは耳鼻咽喉科で相談してください。
補聴器の相談先
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が認定する補聴器相談医がいる耳鼻咽喉科が相談先になります。
探し方は、この記事の「ネットでの探し方」で紹介したページが参考になります。
補聴器に慣れるまでの期間
学会のページでは「最初の1−2週間は不快感を強く感じるかもしれません」とされています。
そのうえで、長い時間をかけて段階的に慣らしていくことが大切だと伝えられています。つらいときは、医師や言語聴覚士に相談しながら続けてください。
検査や調整は一度で終わるか
一度で終わりではありません。学会は「聴力は時間とともに変化するので、定期的な検査も欠かせません」と伝えています。
聞こえに合わせて調整を続けていくものだと考えておくと安心です。
補聴器の購入費の助成の窓口
学会のページでは、「難聴が重く身体障害者に認定されれば、聴力に見合う補聴器を購入する際に、一定額の費用が支給されます」と説明されています。
申請については「補聴器相談医の診察をうけ、該当する聴力の方は、居住する市町村の福祉関係窓口に申請してください」とあります。詳しい内容は、お住まいの市町村の窓口で確認してください。
耳が遠い家族との会話のまとめ

聞こえにくさによる会話のすれ違いは、家族の工夫と、専門職への相談で減らしていけます。
- 補聴器は耳鼻咽喉科での相談から
- 補聴器相談医や言語聴覚士が伴走してくれる
- 慣れるまでの時間があると知っておく
- 視界に入る場所から低めの声でゆっくり
- 確実に伝えたいことは筆談で
- 介護する人の耳が遠いときは鈴や光で
聞こえにくさが気になったら、今のうちに耳鼻咽喉科で相談してみてください。すれ違いが減り、人との交流に前向きになれる毎日へ、一緒に伴走してくれる専門職がいます。
家族との会話が、少しでも楽になりますように。
読んでの感想や、「こんなことも書いてほしいな」と思うことがあれば、気軽に教えてください。ひとことだけでも、とてもうれしいです。お名前は書かなくて大丈夫です。
参考にしたページ
- 難聴について(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)
- 補聴器のやさしい解説(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)
- 補聴器をつけたら「聞こえのトレーニング」を始めましょう(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)
- 補聴器診療が可能な補聴器相談医リスト(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)
- 病院・施設検索(日本言語聴覚士協会)


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