NHKの連続テレビ小説『風、薫る』では、明治時代に看護師が病人の家へ出向いて看護をする「派出看護」が描かれています。
看護師が家に行き、その人の暮らしの中で看護をする。形は変わりましたが、今の訪問看護にも通じる考え方です。けれど今、訪問看護は「点滴や管の管理が必要な人が使うもの」と思われがちです。医療処置がないなら、うちには関係ない。そう感じている方も多いのではないでしょうか。
- 医療処置がないから訪問看護はいらない
- 家族で見られているから大丈夫
- 看護師さんに来てもらうほどではない
- 何を頼めばいいのか分からない

うちは点滴も何もないので、訪問看護は関係ないと思っていました。

実は、医療処置がない方こそ、訪問看護が役に立つ場面がたくさんあるんですよ。
この記事では、訪問看護で働いていた経験をもとに、病状の観察や薬・排便・体重の管理、家族への助言といった医療処置以外の関わりを紹介します。こうした関わりが、早期発見・早期治療、重症化予防、機能の維持・向上につながることもまとめました。
訪問看護とはどんなサービスか

まずは、訪問看護がどんなサービスなのかを整理します。
訪問看護は、看護師などが家に来て、その人の暮らしの場で看護を行うサービスです。病院の看護を家に持ち込むのではなく、家での生活に合わせた看護をしてくれるのが特徴です。
看護師が家に来て看護を行うサービス
訪問看護は、看護師などが主治医の指示にもとづいて、療養上の世話や診療の補助を行うサービスです。
訪問看護ステーションには、看護師のほかに理学療法士などのリハビリの専門職がいるところもあります。家での暮らしを続けるために、体と生活の両方を見てくれるサービスです。
派出看護から続く家での看護
明治時代、看護師の先駆けの一人である鈴木雅は、1891(明治24)年に慈善看護婦会を設立し、看護婦を家庭などへ派遣する活動を始めました。
もちろん、明治の派出看護と今の訪問看護は、制度も資格も運営の仕組みも違います。それでも、看護職が暮らしの場所へ出向き、療養生活を支えるという考え方は、訪問看護の源流の一つといわれています。
利用できる人と主治医の指示
訪問看護は、赤ちゃんからお年寄りまで、病気や障害があり訪問看護が必要な方が利用できます。
利用するには、主治医からの指示書が必要です。介護保険と医療保険のどちらで利用するかは、年齢や病気、要介護認定の有無などによって決まります。手続きの流れは、この記事の後半でまとめています。
医療処置がなくても使える訪問看護

訪問看護というと、点滴や吸引、管の管理など、医療処置のイメージが強いかもしれません。
けれど実際には、医療処置がない方への訪問もたくさんあります。全国訪問看護事業協会のページでも、訪問看護のサービスとして、病状の観察や薬の相談、介護予防、家族への相談など、さまざまな内容が挙げられています。
医療処置だけが訪問看護ではない
訪問看護のサービスの一つめに挙げられているのは、医療処置ではなく「病状の観察」です。
・病状の観察(病気や障がいの状態、血圧・体温・脈拍などのチェックをし、異常の早期発見)
体の状態を定期的に見て、いつもと違う変化に早く気づく。これが、訪問看護の大切な役割の一つです。
体調の観察と健康の管理
私が訪問看護で働いていたとき、医療処置以外にも多かったのは、次のような関わりでした。
- 薬の管理(飲み忘れや飲みすぎがないか、薬がきちんと合っているか)
- 排便のコントロール
- 体重の管理
どれも地味に見えますが、体調をくずさないための土台になるものです。薬がきちんと飲めていない、便秘が続いている、体重が急に増えた。こうした変化は、体調が悪くなるサインのこともあります。
便秘の薬は医師から処方されますが、「便秘のときに飲む」薬は、飲むタイミングに迷う場面が多いものです。そこで、カレンダーなどに排便のあった日を記録してもらい、「今日もなかったら飲みましょう」と声をかけていました。
毎日飲む便秘の薬でも、「錠数は様子を見て調整してください」と言われるものがあります。1錠でいいのか、2錠飲んでおいたほうがいいのか、迷ったときに看護師に相談できます。
排便のリズムは、なかなか一定にはなりません。だからこそ、その都度の調節が大切です。便秘は、おなかが張る、気持ちが悪いといったつらさだけではありません。肝臓の病気では、便秘が肝性脳症(意識や行動に変化が起こる状態)を引き起こす誘因の一つとされていて、重症化につながることもあります。
出典:日本内科学会雑誌 110巻8号(肝硬変診療ガイドラインについての解説)
暮らしの中のケアと家族への助言
訪問看護は、本人だけでなく、介護している家族の支えにもなります。
介護のしかたの助言や、病気や介護の不安の相談も、訪問看護のサービスに含まれています。「これで合っているのかな」と迷ったときに聞ける人がいることは、家で看る家族にとって大きな安心になります。
早期発見と早期治療につなげる役割

訪問看護のいちばんの強みは、同じ人を定期的に見ていることです。
ふだんの様子を知っているからこそ、小さな変化に気づきやすくなります。気づいた変化を主治医に伝えることで、早めの受診や治療の見直しにつながることがあります。
ふだんの様子を知っている強み
「いつもと違う」は、いつもを知っている人にしか気づけません。
定期的に訪問していると、顔色や話し方、食べる量、むくみの具合など、その人のふだんの状態が分かってきます。だからこそ、少しの変化にも気づきやすくなります。
家族が見ているふだんの様子を、訪問看護師にどう伝えればいいかは、こちらの記事でまとめています。

小さな変化に気づく視点
見るポイントは、病気や状態によって違います。
- 心不全や腎不全の方:むくみ、体重、血圧、呼吸の状態
- 神経の難病や寝たきりの方:排便の状態(処方された薬の飲み方の調整、浣腸や摘便)、ベッドの上でのリハビリ
- 終末期の方:食事の量、水分の量、どれくらい動けているか
たとえば心不全の方では、体重が増えたりむくみが強くなったりするのは、体に水分がたまってきているサインのことがあります。こうした変化を記録しておくと、悪くなりかけている時期に気づきやすくなります。
主治医への報告と連携
訪問看護師が気づいた変化は、主治医に報告されます。
訪問看護は主治医の指示にもとづいて行われるので、看護師と主治医がつながっているのも強みです。家族だけでは「受診したほうがいいのか分からない」ときも、訪問看護師が様子を見て、主治医と相談してくれます。
重症化予防と機能の維持・向上

訪問看護は、悪くなってから対応するだけではありません。
悪くならないように日々関わること、そして、体の機能をできるだけ保つことも大切な役割です。家で過ごせる時間を長く守るための関わりといえます。
悪化を防ぐための日々の関わり
毎回の訪問で体調を確かめ、薬や食事、排便、体重などを整えていく。
その積み重ねが、体調をくずしにくい暮らしにつながります。床ずれの予防や、低栄養・運動機能の低下を防ぐアドバイスも、訪問看護のサービスに含まれています。
体の機能を保つためのリハビリ
訪問看護ステーションによっては、理学療法士などが家に来てリハビリをしてくれます。
私が働いていた訪問看護ステーションには、理学療法士も複数名いて、リハビリの中心は理学療法士が担っていました。
看護師と理学療法士、それぞれの視点で同じ方を見ることもありましたし、看護師が訪問するときにも取り組めるリハビリのメニューを、理学療法士が作ってくれることもありました。看護師だけが訪問している方についても、理学療法士に相談することがありました。
寝たきりの方でも、ベッドの上でできるリハビリがあります。今できることを、できるだけ長く続けられるように支えるのも、訪問看護の役割です。
家で過ごす時間を守るために
早めに変化に気づき、悪くならないように関わり、体の機能を保つ。
この3つがそろうことで、家で過ごせる時間を守ることにつながります。病気や状態によっては、どうしても悪くなっていく時期もあります。そのときも、変化に気づいて主治医と相談しながら、その人らしい暮らしを支えていきます。
病気ごとのこの先の道のりについては、こちらの記事でまとめています。

訪問看護の始め方

訪問看護を使ってみたいと思ったら、まずは相談からです。
手続きは、主治医やケアマネジャーが一緒に進めてくれます。家族だけで全部を決める必要はありません。
まずは主治医やケアマネジャーに相談
介護保険を使っている方は、担当のケアマネジャーに「訪問看護を使ってみたい」と伝えてみてください。
まだ介護保険を使っていない方や、何から始めればいいか分からない方は、主治医や地域包括支援センターに相談できます。入院中なら、病院の相談員に相談しておくと、退院に合わせて準備を進めてもらえます。家での暮らしを支えるメンバーについては、こちらの記事でまとめています。

介護保険と医療保険
訪問看護は、介護保険で利用する場合と、医療保険で利用する場合があります。
どちらになるかは、年齢や病気、要介護認定の有無などによって決まります。自分で判断する必要はありません。主治医やケアマネジャー、訪問看護ステーションに確認してください。
訪問の回数と時間
訪問の回数や1回の時間は、体の状態や、利用する保険によって変わります。
最初は少ない回数から始めて、状態に合わせて増やしたり減らしたりすることもできます。「このくらいで様子を見たい」という希望も伝えて大丈夫です。
訪問看護のよくある質問

最後に、訪問看護についてよくある疑問をまとめました。
制度や対応は、地域や訪問看護ステーションによって違うことがあります。詳しくは、利用を考えているステーションやケアマネジャーに確認してください。
医療処置がなくても頼んでいいのか
頼んで大丈夫です。
病状の観察や薬の管理、排便や体重の管理、家族への助言など、医療処置以外の関わりも訪問看護の大切な仕事です。利用できるかどうかは、主治医やケアマネジャーに相談してみてください。
どのくらいの頻度で来てもらえるのか
体の状態や、利用する保険によって違います。
主治医の指示や、ケアマネジャーが作るケアプランにもとづいて決まります。まずは今の困りごとを伝えて、相談しながら決めていきましょう。
家族が留守のときも来てもらえるのか
状況によっては相談できることもありますが、対応はステーションによって違います。
防犯の面からも、具体的な方法は利用するステーションと個別に相談して決めるのが安心です。
夜間や休日も相談できるのか
夜間や休日に電話で相談を受け、必要なときには訪問してくれるステーションもあります。
ただし、申し込みが必要だったり、ステーションによって体制が違ったりします。急に具合が悪くなったときの連絡の流れは、こちらの記事でまとめています。

訪問看護師にどこまで頼めるのか
訪問看護とホームヘルパーの役割は、はっきり線を引けない部分もあります。
ただ、掃除や洗濯、買い物、調理といった家事は、ホームヘルパーの仕事と考えておくと分かりやすいです。何を誰に頼めばいいか迷ったら、ケアマネジャーに相談すると、サービスを組み合わせて考えてくれます。
ホームヘルパーだけを利用していて、ヘルパーさんが薬の声かけや体調の気づかいをしてくれているケースも多くあります。
それでも、入院や体調の変化をきっかけに、訪問看護もあわせて利用することをおすすめしたいです。体調の変化に気づいて主治医とつなぐ役割を、看護師が担えるからです。
他人が家に入るのが不安なとき
家に他人が入ることに抵抗があるのは、自然な気持ちです。
最初は短い時間や少ない回数から始めたり、どこまで家に入ってもらうかを相談したりすることもできます。気になることは、遠慮せず伝えて大丈夫です。このためらいについては、こちらの記事でまとめています。

訪問看護の役割のまとめ

訪問看護は、医療処置が必要な人だけのサービスではありません。
- 訪問看護は家での暮らしに合わせた看護
- 医療処置がなくても利用できる
- ふだんの様子を知る人が変化に気づきやすくする
- 主治医とつながり、早めの対応につなげる
- 悪くならないための日々の関わり
- リハビリで体の機能を保つ
明治の派出看護から続く、暮らしの場で看護をするという考え方は、今の訪問看護にも生きています。
家で看ている家族にとって、訪問看護は一緒に見てくれる心強い存在です。「うちも使えるかな」と思ったら、まずは主治医やケアマネジャーに相談してみてください。
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